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スーツの子供  [Summer~Autumn]

母が永眠した月のことをふと思い出しました。

母が末期の痛み止めで朦朧としていたある朝のことです。
わたしは仕事に行く前の時間、何かのために母の体を起こしてベッドに座らせました。わたしの介添えは要領を得ず、いつも力わざでした。

スーツを着ているわたしのベルトが母の脚に当たったとき、むくんでる母の脚がぶよんと引っ込んで、一瞬跡が付きました。
腹水が溜まっているような状態では、このようなむくみはよくあるみたいです。

(書き始めるとあれこれ思い出しますが、あまり描写しないほうが自分のためにいいのだと思います。ずいぶん前のことなのに、叫びたくなります)


ベッドに座った母は、わたしに、

「お前。悪いな。勉強できないでしょ…」

と言いました。
母は、自分の介護のために息子が勉強できないことを詫びたわけですが、当時、わたしは受験生ではありませんでした。もちろん、勉強しなければならない状態ではありません。
ですので母に、

「おかあさん、わたしは勉強なんかしなくていいんだよ。立派なサラリーマンなんだから」

と言いました。
すると母は、

「そうか…」

と頷いて、うっすらと笑いました。
そして、このときだったか母は、

「おまえ。スーツ似合うな」

と言って笑いました。そこには、母特有のギャグのようなものが含まれていました。
でもそのとき、母の目はうつろで、わたしをはっきりと見ている様子ではありませんでした。

母の、時の感覚がおかしくなっていたのは明らかですが、母が目の前のわたしを(おそらく)10代の頃の状況で認識したことには、ほんの少し意味がありそうにも思えます。
要するに、10代の頃のわたしが、いちばん母に心配を掛けたということかもしれません。


それより少し前に、いちばん下の兄嫁が何度か母の世話に来てくれたことがありました。わたしも父も仕事を休めない日でした。
そのとき兄嫁がわたしに、

「今日おかあさんにね、
“夜中にわたしが何度もH(わたしのこと)を起こすから、Hが体を壊してしまう”
って泣かれたよ」

と言っていました。

体なんか壊さないし、そんなことはどうでもいいから、おかあさんに元気になってほしかったなあ。


……とまあ、そんなことを今日ふと思い出したのでした。
そのときは、
「日記に書き留めておこうかな? もしかしたらもう書いたっけ?」
と思っただけだったのですが、書き始めたらしんみりしてしまいました。
というより、叫びたくなる。

母の最期の頃を避け、家族に関する記憶の時計を半ば意図的にずっと昔にさかのぼらせたために、ここしばらくわたしの心の中の母は、わたしが10代の頃の母だったようです。
そんなに頻繁に思い出すわけでもなく、いつごろの母、というより漠然としたものですが。


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白黒の万華鏡  [Summer~Autumn]

夜だったか昼だったか忘れましたが、ごろりと横になって目を閉じたときのことです。

閉じた目の前の真ん中に幾何学模様が現れ、その場でちょうど万華鏡のように形を変えていくのが見えました。
また、それとは別に、その他の幾何学模様がひとつひとつ現れ、上から下へ、あるいは右から左へと流れていきました。

わたしは、残像とも違う感じのこの映像が面白くて、意識的に見続けました。
万華鏡は真ん中でずっと動いていましたが、流れていく模様の方は隅のほうまで動くと消えてしまうので、新たな模様が現れるように意識すると、ちゃんとどこかに違う模様が現れて同じように流れ出します。

それらは止まることがありませんでした。

後でふと思い出したのですが、小学生だったころにときどきこのような映像体験をしていて、目を閉じたままずっとその図形たちを見ていたこともありました。
脳か目の仕組みによる、ほんのちょっとした現象なのだと思いますが、ものすごく久しぶりでした。
もしかしたら、今日体験しなければ、子供の頃にこのようなことがあったことを永遠に忘れていたかもしれません。


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缶コーヒーのほろ苦い思い出  [Summer~Autumn]

外国人が、日本の缶コーヒーはおいしくないと言うのを何度か聞いたことがあります。
たしかに、コーヒーと名乗るにしては独特の味だと思います。
いろいろなメーカーから何種類もの製品が発売されていますが、わたしにはあまり味の違いも分かりません。


小学生の頃、近所に無料で利用できる体育館がありました。
ある日、そこに遊びに行くと、エントランスにクラスの友達がいました。
彼は外のグランドでの地域のクラブ活動に参加しているところで、休憩時間に、体育館のエントランス内の自動販売機に飲み物を買いにきたところでした。

彼とわたしは談笑を始めて、自動販売機の前に立った彼はこう言いました。
「Hちゃん。この販売機、おかしいんだよ。ジョージアの缶コーヒーを押すと、UCCのが出てくる」

そして、彼が販売機に小銭を入れてジョージアのボタンを押すと、本当にUCCのコーヒーが出てきました。
わたしは、
「ひどいな~。いつも? クレームしたほうがいいよ」
と言いました。

そこへちょうど、ドリンクのダンボールを載せた台車を押して、補充のおじさんが中に入ってきました。
おじさんはわたしを見て、
「ああ。遊びに来ていたか」
と笑って言いました、というよりそれはわたしのお父さんでした!!

わたしは最高潮にバツが悪く、おそらく頬は真っ赤だったに違いありません。
ほんと、なんで食品問屋の社長が自分で販売機のドリンクの補充にくるんだ!?
販売機の事業もしていたことを初めて知ったし。
いや、それはいいとして、

ガラガラガラ…

という音と共に補充されていく上島が、心の底からうらめしいのでした。

(註)上島珈琲 = UCC


夜、家でお父さんに、
「缶コーヒーはちゃんと商品通りに入れたほうがいいよ」
と訴えました(言い出すまでに相当に時間を要しました)。
すると、お父さんは、
「ああ。味は同じだからいいんだよ」
と言っていました。

あきれたおかあさんはノーコメントでした。


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