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仕事ではなくメシがでてきた。 (1)  [おかあさんハローワーク]

苦しかった失業中のことを思い出すと、なんだかとても懐かしく、そしてしんみりする。
母が死んでからしばらくして、わたしが勤めていた会社は廃業し、そしてわたしは失業者となった。
はじめ会社関係の知り合いなどからあれこれ仕事を紹介してもらえることもあり、余裕をこいていた。

しかし実際に話を聞いてみると、アヤシイものばかりで、わたしは次第に焦り始めた。
実際にはわたしには就職先が無いことに気付いたのである。
わたしは自分で就職活動を始めることにした。
ハローワークに行って、職を検索し、履歴書を送り、そしてその履歴書が返ってくる。
これを何度も繰り返しているうち、わたしの心はどんどん変調していった。

そのうちハローワークにも行かなくなり、家で月々の支払いの心配ばかりしていた。
そしてときどき、おかあさんを思い出してはメソメソした。
1ヶ月ぐらい何もせず、やはりこれではまずいと、強い拒否反応をおこしつつも自転車をこいでハローワークに向かった。

ハローワークの駐輪場のスペースに、以前はなかったプレハブが建っており、
   おかあさんハローワーク
と書いてあった。
最近は子供を育てながら働くママのためのコーナーがあると聞いていたので、それかなと思ったが、どうも違うようだ。
窓から中を覗くと、なぜか室内に洗濯物が干してあり、生活感が感じられる畳の和室であった。


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仕事ではなくメシがでてきた。 (2)  [おかあさんハローワーク]

独りいぶかしがっていると、中からエプロンをした50代ぐらいの女性がでてきて、
「就職でしょ? 中に入りなさい」
と言う。
外見も話し方も、職員というよりおかあさんだ。

靴を脱いで中に入って、座布団に座った。
おかあさんはお茶を入れながら、
「どういう仕事を探してるの?」
「何個受けたの?」
「得意分野は?」
とかいろいろ聞いてきた。
一応それに適当に答えたのだが、それよりここはなんなんだ。
わたしは恐る恐る聞いてみました。
「仕事、紹介してくれるんですか?」

おかあさんは「は?」という顔をした。
それから戸棚を開けて求人票のファイルを取り出し、
「やる気があればいっぱい紹介するよ」
と言ってすぐにファイルをしまった。

わたしは、
「すぐに仕事がしたい、とりあえず今日1個紹介してよ」
と言った。
するとおかあさんはわたしをいきなりぶって、
「栄養つけるのが先でしょう! このばか者!」
と怒鳴りました。

わたしがびっくりして悲しくて情けなくて正座のままメソメソしている間に、おかあさんは手際よく味噌汁と鯖の味噌煮、あと和風の小鉢みたいの(切干大根?)その他を作ってお盆でテーブルに運んできました。

「わぁ、家庭料理だ! 家庭料理だ!」
喜ぶわたしを見て、おかあさんもうれしそうに笑った。

わたしはそれらをパクパク食べました。
ほんとにおいしかったです。

ごちそうさま~!

  ごちそうさま~!

ごちそうさま~!


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ハローワークに毎日通った(しあわせ)  [おかあさんハローワーク]

それからというもの、わたしは毎日おかあさんハローワークに通いました。
毎日家庭料理をごちそうになりました。
ほんとうに幸せな日々でした。

もう仕事なんかしたくない、ずっとこのままでいたい、って思い始めたんです。

……しかし、現実問題として、働かなければお金は底をついてしまう。
わたしは不安をかき消すように、ガツガツおかあさんの家庭料理を食べました。

  おかわりっ!
            おかわりっ!

おかあさんはニコニコして、何杯でもご飯をよそってくれました。
わたしはうれしくて、そしてどうにもならない不安がこみ上げて、半べそでご飯を食べました。

 おかわりっ! ふふん
                   おかわりっ! ふふん

(ふふん、のところで泣いていました)


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