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夜の幻デート  [Diva]

わたしは目が疲れやすいので、夜でも外に出て軽い散歩をすることがあります。ずっと室内にいるより、外のほうが疲れの回復が早いように感じます。

わたしは住宅地に住んでいて、大通りではなくとも外灯はありますが、ひとけもなく、ただわたしだけが夜の徘徊をしているかのように感じられる通りもあります。
もちろんそんな場所でも、通りに並ぶ住宅の中には家族の団欒や休息があるわけですが。


これから書くことは、いつもの通り個人的な日記です。

今のわたしは、社会や人間について、いろいろなことを真面目に考えており、内容や程度は違えど他の人たちと同じように自分自身も困難を抱え、奮闘しています。
しかし、わたしがここに書き印したいのは日記であって、この文章の第一の目的は、自分自身が日々のつまらぬことを書いて楽しむことと、いつかこの文章をわたし自身が読み返して、ささやかでつまらぬ人生を振り返ることです。

ですから、読者はわたしがいったいどんな人物か誰も知らず、ただ文章だけが永遠に綴られていきます。
そして今夜も、自分が感じたことを書き綴るのみであって、誰かに対してなんらかの結論や主張を述べるものではありません。


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夜の幻デート 静かな夜道  [Diva]

わたしは夜の軽い散歩に出掛けました。
ちょうど一区切りが付いた休日でのんびりしつつも、わたしには考えなければならないことがありました。

散歩で通る道は、いつもだいたい決まっています。そんなに遠くまで行くわけでもありません。
駅とは違う方向の公園の辺りを通り、わたしはそろそろ帰ろうと思っていました。
たくさんの住宅が並んでいるのにもかかわらず、静かな夜の道です。

車が通るわけでもないのに歩道もある広い道を歩いているとき、わたしのすぐそばを自転車が追い越しました。
危ない感じではありませんでしたが、その距離感は知ってる人の前を通るときのようでした。
そして、そのまま考え事を続けようとしていたわたしは、通り過ぎていくはずがわたしの横にぴったりと並んだ自転車からの、聞き覚えのある声に胸騒ぎを覚えました。

自転車の彼女は、明らかにわたしを意識しながら、独り言を始めました。
彼女は、先日突然現れてわたしを震えさせ、そしてすぐにわたしの意識から消えたはずの、ピンクの手袋のあの娘でした。

楽しげに話し続ける彼女の静かな独り言には、ちゃんと内容がありましたが、話は次々変わりました。

「(おそらく政治家か誰かに対して)ひとが困ってるときに、まあ、あんなことしてるってのも、どうかと思うけど、やっぱり○△#○…」

「やっぱり大きい倉庫にいっぱい買っといて、値段が高くなったら売る、こういうのがわたしはいいと思うの。やっぱりビジネスは○△#○…」

彼女の語尾は必ずあいまいになり、そうしている間に話題は次々変わっていきました。
彼女はわたしをはっきり見ることはありませんでしたが、わたしのほんの少し前にいて、体と顔は斜めにわたしを向いていました。

わたしは正直、ぞっとしました。
暗がりでわたしにぴったりと寄ってきた彼女が、いったい何者か分からないのです。
どこかを病んでいるのは明らかですが、それがどんな状態なのか検討もつきません。妄想みたいなものがあるのか、それとも知的障害のようなものがあるのか、あるいはまた別のものなのか…。

彼女の声は本当に透き通っていて、それがまた怖くて仕方がありませんでした。
彼女はますますわたしに寄り、本当に楽しげに話し続けました。


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夜の幻デート 胸騒ぎ  [Diva]

彼女はわたしに対し、話し掛け続けています。にもかかわらず、彼女の言葉の全ては独り言のままでした。

わたしは本当に困惑していました。
街灯があるとはいえこの暗がりで、この娘が突然に騒ぎ出したらどうなるかということまで頭をよぎりました。
彼女の異様な近さがわたしを硬直させ、わたしはなんとか彼女が先に行くようゆっくりと歩きました。
それに合わせる彼女の自転車はときどきぐらぐらとよろめき、それでも彼女はぴったりとわたしに並んでいました。

わたしはこの娘が、いつも他人に対してこのようにしていることを想像しました。
そして、もしそうであれば、彼女自身が危険に巻き込まれることも想像に難くありません。この状況を面白がる男だって、世の中にはたくさんいることでしょう。

そして、この想像はわたしの心を陰鬱にさせ、一刻も早くこの状況から抜け出したいのでした。
わたしはこのような想像が本当に苦手なのでした。

あるいは彼女は、わたしをどこかで知っていて、わたしだけにこうしているということもあるのでしょうか。確かに彼女に寄り添われるのは2度目なのです。
しかし、この薄暗い中、わたしがつい先日会ったことのある相手であることを、彼女が認識しているはずはないのでした。

硬直するわたしは、目だけでかろうじて彼女のほうを見ると、彼女は上は普通の洋服でしたが、よく見るとはいているのはピンク色っぽいパジャマでした。
先日見たときは、きれいにセットされた髪といい手袋といい、少なくとも本人はおしゃれだと思ってそのような色合いの服を選んで着ている娘であるという認識でしたが、実はあのときも今と同じパジャマをはいていたのかもしれません。
そして、この数日間、予期せぬ涼しい日が続いているとはいえ、既に暑いこの季節に手袋とは……。
異様な距離の近さや、目を合わせないながらわたしを振り返っている顔のせいで、わたしは彼女をしっかりと見ることはできなかったのでした。

話し続ける彼女は、大人びた話をしたがる年頃の子供のように、楽しげに気取った感じでした。
今自分がしている話題が、知識やおしゃれの観点で、周囲より一ランク上のものであるという満足感のような意識も感じさせる話し方のようにも聞こえました。
それは、女友達とはじめてカフェショップに入ったかのような風でもあり、あるいは「デート」の最中のような感じでもありました。

わたしはこのまま無言でやり過ごそうと思いました。
ここで、何かわずらわしい問題を抱えたくはありませんでした。

しかし、わたしは彼女の独り言に現れたある言葉に、思わず反応してしまいました。

「…幻のゴート札の行方なんかもね、○△#○…」


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