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心の中の産物

いつまでもめそめそしているわたしに、読者が言いました。

「そんなに悲しむことはありません。去っていった彼だって、あなたよりまだお若いようですし、やりたいこともあるんでしょう」

「だいたい、イマジナリーフレンドってのとも、ちょっと違うようですし。たしかにあれは、人に話したら消えてしまいますがね」

わたしは、

「慰めてくれるな。わたしは今、純粋に悲しいのです。やるせないのです。わたしの唯一のお友達は、もういなくなったのです」

と答え、まためそめそしました。もう読者を怒る気力もありません。素に戻っているようです。
と、そこへ、

「そらそら! 油断するなと言ったじゃないか!!」

という声とともに「わたし」が現れました。
そして、自分のことのように彼の再登場にほっとする読者たちのひるんだ隙に、彼らがそれぞれに隠し持っていたしけた花火に、彼はライターで無理やり点火しました。

「おわっ」「おわっ」「おわっ」

読者たちは三つ子のように慌てましたが、一旦ついてしまった花火の火は止めることができません。彼らにできることは、危なくないように行儀よく並んで、火花をあげる花火を前に差し出すことだけでした。
わたしの目の前で、三つの花火がすすき色のきれいな色をあげて燃えています。それは不意に赤や緑に変わり、小さい頃のわたしが、今は思い出せない誰かと楽しんだ、夏の終わりの花火のようでした。
ぱちぱちと音を立てるささやかな花火に照らされる「わたし」は、わたしに、

「そら。エピソードを引き起こしたよ! やればできるでしょ! 夏の終わりの小さな花火大会だよ」

と、勝ち誇ったような顔をしています。
わたしはわたしで、彼が期せずして戻ってくれたことに喜びを噛み締め、

「いいよ、エピソードなんか。何もなくても、わたしは幸せなんだから。仮に未来が見えないとしても、おわっ」

どかん! どかん! どかん!

……三つの花火が爆発したようです。
そして、辺りは煙に包まれ、その煙が散っていくとともに、そこには読者たちの「お友達」たちが現れたのでした。
お友達は、おっさんのようなおばさんだったり、乙女のような男子であったり、姉貴のような兄貴だったり、なんだこりゃ。
お友達は、それぞれ読者より少し若いように見えましたが、読者の心の中の自分像の現れでしょうか、それはどうでもよろしい。
そして、読者たちは口々に、

「見~た~な~!?」

と叫び、決して見られてはいけないものを見られたときのように、頬を赤らめ、処女のようにはにかんでいます。

やだっ なにこのおっさんたち!

わたしが怖くなって後ずさりしたそのとき、もう一度、

どかん!

という音がして、読者、読者の「お友達」、そして「わたし」もろとも、爆発してしまいました。
先ほどのリアルな爆発とは違い、辺りは蒸気のような青紫色の煙が立ちこめ、そしてその霧が晴れたとき、もうそこには誰もいないのでした。
そのかわり、静寂の中の最後の霧が、

イマジナリー

という文字を、宙に描いていました。
誰もいなくなった原っぱで、わたしは、

「そうでしたか! そうだったんですか!」

と、独り呟きましたが、何に納得したのかは分かりません。
しかし、大方、「わたし」も「読者」も「読者のイマジナリーフレンド」も、すべてがわたしの空想の産物であったことに気付いたということなのでしょう。


少しの間、虚脱していると、年金をもらい損ねたような60代ぐらいの男がそこに立っていることに気付きました。
暗がりの中、その背格好は、未来の自分にも見えました。
しかし、それもわたしの心の中の産物に違いはなく、わたしは、

「消えろ」

と、念じました。ところが彼は、

「消えろったってあんた。今消えていった彼らも、それを生み出したあんたも、全部ひっくるめてわたしのイマジナリーな産物だよ。だからみんなわたしにそっくりでしょ? はい、おしまい」

と言い、わたしはすーっと消えていきました。

ちょっと待ってく……


物語イマジナリー おしまい



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