悲しげな巫女

わたしの家の近所に神社があります。
ここに越してきたとき、同じブロックに独身の年配男が多いのに驚きました。
わたしの家も、元はと言えば、独身者から購入した中古住宅です。彼は会社を早期退職したため、マイホームでの一人暮らしをやめ、中古のワンルームマンションに移り住むとのことでした。

当時、確か土曜の夜だったと思うのですが、くだらなくて笑える番組が放映されていました。
詳しくは憶えていないのですが、ご祈願と称して（だったか？）、柔道着姿の男がスカートの女を巴投げのように軽く投げ、マットの上に転がった女のパンチラが一瞬拝めるというような、身もふたも無いものでした。
パンチラの後で、巫女（みこ）の格好をした男が必ず一言、意味不明なコメントするのが本当に馬鹿馬鹿しくて笑いました。

巫女っていうのは、確か、独身の女しかなれないのでした。
わたしはずっと、この近所に男の独身者が多いのは、神社のパワーが強いせいで、彼らは心身ともに強制的に男の巫女になってしまって、結婚できない運命になってしまったからだと思っています。
ですから、わたしもこの神社のそばに住んでいる限り結婚できないであろうと、半ば真面目に思ったりしていました。


まだ母が生きていた頃、家族のほぼ全員がうちに集まったとき、わたしが最後の独身者であると言われ、

あのね～　そこの神社のそばに住んでる限り、結婚できないんだよ。
この近所の男はみんな、男の巫女になってしまって、ああやってひとりで年老いていくんだ。
巫女は神様の許可無く、勝手に結婚できないの！！

と、真面目に（？）はぐらかしたところ、実姉に、

「男の巫女ってあんた。　あの番組、おもしろかったよね～」

と笑われました。


おとといＪさんが遊びに来たのですが、家に向かう途中、神社から盆踊りの音が聞こえてきました。
ちょっとだけ雰囲気を楽しもうと、ふたりで神社の脇の道を通ることにしました。
わたしは買ってきたお酒などが入った袋をぶら下げ、Ｊさんと手をつないでいました。

すると神社の通りで、近所の独身男のうちの一人とばったり会ってしまい、彼はこちらを見て、なぜか悲しげ～な顔をしました。
恋の気配の無さそうな近所の独身男（お仲間？）が、思いがけず女子と一緒にいて、しかも手をつないでいる。ああ、意外なり。買い物袋まで持っているではありませんか！！
……こんなときのリアクションは、なんとなく笑うのが普通ではと思うのですが、どんな理由であんな深刻な悲しい顔になるのでしょうか。仲のよさそうなふたりに、意味も無く腹が立つというなら、まだ解りますが。
わたしはそのとき、心の中で、

やっぱり、あのおじさんは巫女にさせられてしまったんだな

と確信しました。

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